ZOKZOK Experiment Report / 実験記録

2026.06.28|ZOKZOK STUDENT SESSION|Prototype Lab #01|実験レポート

完了 EXPERIMENT 開催日:2026年6月28日 レポート作成日:2026年7月19日 会場:実験施設 ZOKZOK 1Fサロン「縄文文化交流会館」

「うまく描けないから」と、最初の一歩をためらった経験はないだろうか。
今回ZOKZOKで行った実験は、完成した絵の出来栄えではなく、「今日描いた」というその事実に光を当てる、新しいアプリのプロトタイプを、実際に手を動かして試してもらう場だった。

集まったのは、絵を描き慣れた人もいれば、ほとんど描いてこなかった人もいる——背景の異なる参加者たちである。
彼らがアプリに触れ、戸惑い、何かに気づいていく過程からは、初心者の悩みと描き慣れた人の悩みが地続きであることや、人と人とのつながりが新しい興味への扉を開くことなど、当初の想定を超えるいくつもの発見が立ち上がってきた。

本レポートは、その場で観測された反応と、そこから見えてきた可能性・課題を記録するものである。

ZOKZOK Experiment Reportは、実験の成功/失敗を判定するためのものではありません。起きたことを観測し、そこから見えてきた気づきや課題を整理し、次の一手へつなぐための記録です。実験を一過性の出来事で終わらせず、次にまた始められるための心理的資本として、場に蓄積していきます。

実験概要

参加人数
4

実験後の結論サマリー

今回の実験で最も重要だった発見は、描くことへのつまずきが、初心者だけのものではなかったという点です。

「何から描き始めればいいかわからない」という悩みは、初心者にとって大きな入口のハードルです。しかし、描き始めたあとに生まれる「うまくいっていない気がする」「どこを直せばいいのかわからない」「続けるモチベーションが落ちる」という悩みは、すでに絵を描いている参加者にも共通していました。つまり、Colorverseが向き合うべき課題は、単に「初心者に描き方を教えること」ではありません。描く人が、自分の制作過程や迷いを記録し、次の一歩を見つけられるようにすることです。

また、今回の実験では、アプリの機能だけでなく、ZOKZOKという場に集まり、他者と話しながら試すこと自体にも意味があることが見えてきました。人に誘われて参加したことで、イラストへの興味が生まれたり、プロトタイプを試せる場そのものに価値を感じたりする反応がありました。

今回の体験会は、Colorverseの完成度を評価する場ではなく、描く人のつまずきと、学生発プロトタイプが社会に出る前に必要な検証点を観測する場として機能しました。

今回の問い

① まずはアプリが動くかどうか

② 記録対象の転換は、挫折を抑えるか
「今日◯分描いた」という事実を積み重ねることで、完成度基準で自分を否定してしまう癖を、どれくらい抑えられる/置き換えられるか。熟練度に関係なく、いろんな人が「やった」という事実にフォーカスできるか。

③ アプリのフィードバックは、次の一歩につながるか
苦戦したポイントに対してアプリが出す「ここで苦戦しましたね/こう描いてみては?」というコメントが、(a) 初心者の“分からない部分”の改善に、(b)「次はこれをやってみよう」という行動に、それぞれどれくらいつながるか。

④ 共有のハードルは、どれくらい下がるか
「完成された上手い絵」を共有する(今のSNS的な)ハードルと、「今日これだけ頑張った・上手い下手は関係ない」を共有するハードルは、どれくらい違うか。さらに、イベントという場で面と向かって直接共有することで、その壁がどれだけ下がるか。

⑤ コンセプトは、初心者にちゃんと“届く”か
初心者が初めて触ったときに、「あ、これは初心者(=自分)のためのアプリなんだ」と直感的に受け取れるか。これが最初の大事な分かれ目になる、という認識です。

実験の内容

今回の実験には、4名の参加者を迎えた。冒頭ではまず参加者それぞれの自己紹介を行い、続いて主催者であるレオ(小樽商科大学4年)が、立ち上げを目指す学生スタートアップ構想「Colorverse」について紹介した。アプリが何を目指しているのか、その背景にある考えを共有したうえで、実際の体験へと移っていった。

参加者は、プロトタイプ版のアプリを各自で操作し、アプリと対話しながら実際の創作(お絵描き)に向かった。およそ20分の制作と、アプリ上での記録を、2回繰り返す構成とした。完成した絵そのものではなく、描き、そして記録するという一連の流れを、二度たどった。

参加者の顔ぶれは、普段から絵を描いている人もいれば、かつては絵を描くことが好きだったものの、しばらく描いていなかった人もいるなど、絵に向き合う頻度はさまざまだった。それでも、いざ描き始めると、皆一様に集中して手を動かしていた。アプリの操作については、ところどころ説明を要する場面もあったが、概ねスムーズに進行した。

描く・記録するを2回繰り返したのち、参加者全員で、制作を通じた心情の変化やアプリを使ってみての感想、その場で思ったことなどを話し合った。手を動かした直後の実感を、互いに言葉にして共有する時間となった。

ディスカッションを終えた後は、ZOKZOKのすぐ近くにある札幌武蔵野美術学院を訪問した。参加者と同世代にあたる中高生が、デッサンに真剣に取り組む様子を見学し、河野先生から、学生とアート・創作を取り巻く環境について話を伺い、実験の締めくくりとなった。

観測されたこと(事実・反応・変化)

参加者
アプリは概ね体験可能だったが、操作説明は必要だった
参加者はプロトタイプ版のColorverseを実際に操作し、描く・記録するという流れを体験した。全体として進行は成立したが、操作についてはところどころ説明を要する場面があった。今後は、初回利用時に迷わないUIやガイドの設計が必要である。
参加者
描く頻度の違いに関係なく、参加者は集中して手を動かしていた
参加者には、普段から絵を描いている人もいれば、しばらく描いていなかった人もいた。しかし、実際に描き始めると、それぞれが集中して制作に向かっていた。描く経験の差はあっても、「描く時間」に入ること自体は成立していた。
参加者
初心者のつまずきと経験者のつまずきは地続きだった
初心者には「何を描けばよいかわからない」という入口の課題があった。一方、すでに描いている参加者にも、「完成した絵に物足りなさがある」「どこを直せばよいかわからない」という悩みがあった。つまずきの位置は違っても、制作を続けるうえで他者やAIからの視点を求める点は共通していた。
想定外
AIへの期待は、評価よりも“次の一手”に向いていた
参加者は、AIに単に上手い・下手を判定してほしいのではなく、次にどう描けばよいか、どこから始めればよいか、どんなキーワードで描き出せばよいかというヒントを求めていた。特に自由記述で相談できることや、その場で返信が返ってくる対話性への期待が見られた。
コミュニケーション
人とのつながりが、新しい興味の入口になった
イラストに強い関心があったわけではない参加者も、人に誘われて参加したことで、描くことの楽しさや、プロトタイプを試す場の価値に気づいていた。ZOKZOKという場は、アプリの検証だけでなく、新しい興味に触れる入口としても機能した。
運営
札幌武蔵野美術学院の見学が、実験の射程を広げた
体験会後に札幌武蔵野美術学院を訪問し、中高生がデッサンに取り組む様子を見学したことで、Colorverseの検証対象が「イラスト初心者」だけでなく、美術教育や進路、創作環境へも広がる可能性が見えた。

見えてきたこと(気づき・可能性・希望)

試す場とシェア

参加者の反応からは、このアプリや場のもつ可能性が、当初想定していたイラストの領域を超えて広がりうることが見えてきた。
一人の参加者は、そもそもイラストそのものよりも、自分でビジネスを考えることに関心を持っていた。ZOKZOKという場についても事前に知っていたわけではなかったが、ここでプロトタイプを実際に試してもらえるという仕組みそのものに可能性を見出していた。描く対象としてのアプリだけでなく、「試す場が開かれている」こと自体が一つの価値として受け取られたことになる。
別の参加者からは、これまであまり絵を描いてこなかったからこそ、AIを活用できる点を前向きに評価する声があった。加えて、ときに強く熱中することはあっても、継続して投稿・シェアし続けるイメージは持てずにいたという。そうした人にとって、「投稿・シェア」という体験そのものが新しく映り、自分の世界を広げるきっかけになりそうだと感じられていた。

つながりが開く扉

イラストについて詳しく知っているわけではなくても、人からの誘いをきっかけに一歩踏み込んでみると、そこで興味が芽生えることがある——今回の参加者の反応から、そうした気づきも見えてきた。
裏を返せば、一歩踏み込むきっかけがなければ、新たな気づきを得たり、自分自身を知ったりする機会そのものが生まれにくい。ある参加者は、今日この場に誘われていなければ、「イラストは楽しいものだ」と気づくことはなかったと振り返っていた。
ここから浮かび上がるのは、人と人とのつながりが、好きなものや将来の選択肢を広げていく入り口になりうる、という可能性である。

完成後の意見

すでに自分の絵を公開し始めている参加者からは、完成した絵に対して、AIからの評価やコメントがほしいという声があがった。
描き終えたものの、どこか物足りなさが残る——そうしたときに、何らかの意見がほしいという。完成までの過程を支えるだけでなく、描き上がった一枚に対して客観的な視点を返してくれる存在へのニーズが、すでに描いている層から示された。

描き出しの手がかり

絵を描くことは「何を描こう?」から始まるため、その工程に慣れていない人にとっては、キーワードが提示されるだけでもありがたい、という反応があった。描き出しのきっかけを外から与えてくれることが、最初の一歩を後押ししていた。
そのうえで、キーワードの量やサンプル、ランダムな色や図形といった要素がもっとあるとよい、という要望も寄せられた。キーワードは完成されたものでなくてよく、抽象的なものでも描き出しの助けになる、という声もあった。

どこから描くか

描く工程の「どこから描くか」がいつもわからない、という声があった。これに関連して、ほかの人がどこから描き始めているのかがわかるとよい、という要望が寄せられた。描き出しの手順を、ほかの描き手の例から知りたいというニーズである。
また、何かに取り組んでいる過程そのものが好きで、タイムラプスで手元を撮影しているという参加者もいた。こうした人にとっては、絵を描く過程を動画として記録できる機能があるとよいかもしれない。

アイデアで関わる

自分では描けない(時間がない等)けれども、「こんな絵がいいな」というアイデアは出せる、そうした形での関わり方があるとよい、という声があった。
実際に手を動かして描くことだけでなく、アイデアを出すという入り口からも参加できる余地への期待がうかがえた。

見えてきた課題(改善点・前提確認・再構成)

運営 重要
今回は告知から開催までの期間が短く、集客に難しさが残った。学生が「参加しやすそう」と感じるためには、企画の見せ方、安心ルール、参加後のイメージをより明確に伝える必要がある。
運営 要改善
当日の流れは事前に設計されていたが、アプリ操作、通信環境、参加者の戸惑い、描く時間の個人差など、起こりうる問題をもう少し幅広く想定しておく必要があった。
コミュニケーション 軽微
今回はアプリ体験が中心だったが、参加者同士がワイワイ描く、互いの制作過程を見せ合う、描き出しのきっかけを交換するなど、対面で集まったからこそ生まれる体験をもっと設計できる余地があった。
記録 軽微
参加者からは、描き始めの手順を知りたいという声があった。時間、感情、画像だけでなく、描き出しの手順や制作過程の動画記録も検討できる。

次に試すこと(次の一手・仮説・継続)

Web
初心者にとって「何を描くか」が最初のハードルになる。抽象的なキーワード、ランダムな色や図形、サンプル提示など、描き始めるための外部刺激を増やす。
パートナー
今後の開発には、レオくん一人ではなく、大学在学中に関わりたい学生や、デザイン・開発・教育に関心のあるメンバーとのチームづくりが必要になる。

今後の展開

今後は、アプリ本体の作り込みと、検証対象の拡大という二つの方向で展開を進めていく。

まず取り組むべきは、アプリの基本的な機能を確実に使える状態に仕上げることである。この土台を整えたうえで、利用者の声を集めながら、どこを改善すべきか、どこから着手すべきかを見極めていく。改善の優先順位は、あらかじめ決め打ちするのではなく、実際の声を起点に判断していきたい。

検証の対象も、より多様な層へと広げていく。今回参加したのは大学生だったが、大人になってからイラストを趣味で始めてみたい人や、高齢者で趣味として取り組みたい人にも、ぜひ話を聞いてみたい。イラストを描くことは年齢や性別を問わず取り組める趣味であり、できるだけ幅広い人の実感を拾っていきたいと考えている。

その延長として、「描きたい」人だけでなく、「描く必要に迫られている人」も視野に入れている。今回は美術の授業との関わりに触れる場面があったが、これに関連して、教育の現場での活用も展開の一つとして構想している。さらに、仕事で図やイラストを描く必要がある人、言語の通じない場面で絵によって意思を伝える人など、イラストを伝達の手段として用いる層も考えられる。こうした広がりはまだ先の可能性ではあるが、視野に留めておきたい。

多くの人の協力を得るために、完成イメージを具体的に共有できるサンプルを丁寧に作り込んでおくことが重要になる。実際に手に取った人が「これを使ってみたい」と思える形を示せれば、そこから本格的な開発へとつなげていくことができる。

こうした展開を支える柱が、チームづくりである。とりわけ、大学に在籍している期間に、その活動の一環として関わってみたいと考える学生たちと、ともに進めていける形をつくっていきたい。

参加者の声

普段から絵を描いていますが、描き終わったあとに「何か足りない」と感じることがあります。そのときに、AIから客観的なコメントや次に試せるヒントが返ってくると、もう一歩進めそうだと思いました。初心者だけでなく、描いている人にも使える可能性があると感じました。
- 参加者A
イラストそのものに詳しいわけではありませんでしたが、実際にプロトタイプを試せる場があることがおもしろいと思いました。学生が考えたものを、こうして実際に人に触ってもらいながら改善していく場があるのは、とても価値があると思います。
- 参加者B
最初は何を描けばいいか迷いました。キーワードや色、図形など、描き始めるきっかけがもっとあると入りやすいと思います。何もないところから描くよりも、ヒントがある方が、自分でも描いてみようと思えました。
- 参加者C

実験施設 ZOKZOK

ZOKZOK Experiment Report について

ZOKZOK Experiment Report は、実験施設 ZOKZOK で行われた小さな実験の記録です。

完成された結論や成功/失敗の判定ではなく、その場で起きたこと、参加者の反応、空間の変化、そこから見えてきた気づきや課題、次に試したい一手を記録し、次の実験へつなげるために作成しています。

ZOKZOKでは、こうした記録を、実験を一過性の出来事で終わらせないための documentation として位置づけています。
観測し、意味づけ、再構成し、次の一手を見つけること。
その積み重ねが、もう一度はじめるための心理的資本として、場に蓄積されていきます。

Rights / Usage

本レポートに含まれる文章、写真、図版、記録データ、構成、デザイン等の著作権は、実験施設 ZOKZOK または各権利者に帰属します。無断での複製、転載、改変、配布、公開、商用利用は、著作権その他の権利を侵害する場合があります。

Collaboration

本レポートの内容、記録データ、写真、実験結果等の使用・転載・提供、または共同研究、商品開発、企業研修、地域プロジェクト等でのコラボレーションをご希望の場合は、事前に実験施設 ZOKZOK までお問い合わせください。

実験施設 ZOKZOK |info@zokzok.art|https://zokzok.art
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