創成イーストの10年を、1年に1本のクラフトビールで記録していくプロジェクト「SEOR(創成イースト観測記録)」。その第一弾『SEOR(セオル) #01』の発売を前に、プロジェクトリーダーの吉橋稚乃と、実験施設 ZOKZOK 総合ディレクターの渡辺元佳に話を聞きました。
街との距離

――お二人にとって、創成イーストはどんな場所ですか。
渡辺 僕は伊達市出身で、ZOKZOKができて初めてこのエリアに関わりました。だから、創成イーストが地元の吉橋さんとは、街に対する愛着や温度感がまったく違います。
ただ、ZOKZOKの前の道路は、多くの人が通るのに暗くてもったいないなと思っていました。ZOKZOKをつくるときには、ここに明かりを灯したい、ということを考えていました。
最近は、ここを通学路にしている子どもたちが「今度寄るね!」と言ってくれて、少しずつ変化を感じています。街はどんどん変わっていきますし、僕たちが来た時点でも、もう変わりはじめていました。

吉橋 私にとって創成イーストは、先祖代々受け継がれているエリアで、幼少期から何かあるたびに来ていた場所でした。そこにZOKZOKができたことで、改めてこのエリアに関わることができるようになった。
自分が感じている創成イーストの変化を、きちんと記録に残していきたいという気持ちがありました。ZOKZOKの活動と関わるうちに、「いろんなことができるな」と、地域との距離感がアップデートされた感じがしています。
渡辺 このプロジェクトは、吉橋さんがリーダーじゃないと立ち上がらなかったと思います。
空間をつくる人が、ビールをつくる
――吉橋さんは普段、設計事務所コヤノナカで建物の設計やインテリアデザインを手がけています。人が暮らしたり活動したりする「空間」をつくる仕事ですよね。
吉橋 建築や空間づくりは「ただ単に箱をつくるのではなく、街をつくる」という目線を意識しています。クラフトビールも同じように、単に美味しいビールを作るだけでなく、人と人とをつなげたり、街を明るく楽しくできるのではないかと考えていました。
渡辺 建築をやっている人が、その空間の中で楽しむものに手を出しはじめた、というのが面白いなと思いました。
吉橋 この企画が形になったのは、渡辺さんと吉田さんと一緒にEXTRACTさんの事務所を見に行ったあたりからです。
自分ひとりだったらできなかったことが、ZOKZOKができたことで「ここでやろう」となった。それは私にとって結構重要な転機でした。そのうえで本当にタイミングよく、グラフィックデザイナーの佐藤暢孝さんに出会い、クラフトビールのアドバイザーをしてくれる松井広行さんに出会えて、企画が進んでいきました。

渡辺 創成イーストに関わる人たちが、この街のことを考え、札幌のブルワリーと一緒につくる。醸造はStreetlight Brewingが担い、地域の店を通して、地域の人に楽しんでもらう。
一本のビールが街をめぐることで、人が店を訪れ、そこで新しい交流や会話が生まれる。飲んで終わるのではなく、その土地の風景や人の営みに目を向け、創成イーストの「いま」を観測するきっかけになるんです。
SEORは、一年に一本、実験施設 ZOKZOKと共に10年間続いていきます。その年に出会う人も、交わされる言葉も、街の風景も少しずつ変わっていく。その変化をビールとともに記録し、次の一年へ手渡していきたい。
つくる人、届ける人、飲む人がつながり、街の記憶が積み重なっていく。そんな循環が札幌という都市の真ん中で生まれることに、すごく面白さと可能性を感じています。
クラフトビールは「重たい」と思っていた
――お二人はもともとクラフトビールが好きだったんですか。
渡辺 燻製が好きで、自宅で燻製をつくったり、雑貨屋でビールキットを買ってきて自分で仕込んでみたり。タップルーム(醸造所や専門店がビールを提供するお店)に行くのも好きでした。ただ、知識を深めてきたわけではなくて、「美味しければいいな」ぐらいの感覚だったんです。

松井さんのいろいろな話を聞いて、クラフトビールはつくる方も面白いメディアだし、飲む方も面白いメディアで、いろんなレイヤーが多層になっている。すごく奥深いなと思いました。
吉橋 私は正直、クラフトビールは「重たい」というイメージがずっとあって、あまり好んで飲んでいなかったんです。
でも、数年前から面白いパッケージのものが増えて、クラフトビールが目につきやすくなった。そこから興味を持ちました。

今回醸造していただいたStreetlight Brewingは、パッケージが可愛くて、文章もちゃんと読みたくなる、興味がそそられるものが多いです。丁寧につくっているブルワリーが出すものは、そうしたアプローチの仕方も含めて変わってきているんだなと感じています。
デザインの仕事をしているとどうしても味以外の部分に目が行くので、味についてはまだまだ勉強中です。ただ、今はきちんと見て、きちんと飲もうというところがようやくできているので、これからが楽しみです。
なぜ、セゾンだったのか
――#01のスタイルはセッションセゾンです。
吉橋 味を決めるのは本当に大変でした。松井さんや、Streetlight Brewingの大阪さん、山谷さんにも入っていただいて、ものすごく話して。
Streetlight Brewingがつくるので、味は間違いないだろうと。ただ、一発目から好みが分かれるものをつくるのはちょっと違うよね、という話をしていました。
そこで挙がったのが、セゾンでした。もともと夏の農作業の合間に飲まれてきたビールで、軽やかで飲み疲れない。初めての一本として、ちょうどいいスタイルだと思いました。
あわせて、度数は低めにしたいという希望もあり、そのときに「セッション」というスタイルを提案してもらいました。語り合いながら、酔いすぎずに長く飲めるようなビールを「セッション」と呼ぶ、と。それなら「セッションセゾン」だね、と決まりました。

セゾンは飲むタイミングが限られているというか、夏はすごく飲む機会が増えるけど、その時期を外すと本当に見かけないものなんだと最近知りました。だからこそ、セゾンを冬に向けてつくる理由が、逆に北海道らしさを生み出せるんじゃないかと。
渡辺 寒い外から暖かい建物に入ってきて、最初に乾杯する。そのためのビールとしては最高だと思います。北海道の冬は厳しいし、冬が長い。長い冬を楽しむためのビール、というのはすごくいい。
吉橋 乾杯の一杯であってほしいですよね。会話の糸口として。お店に来て、一発目にこれで乾杯してください、と。
副原料や香りづけの少ないシンプルなつくりで、ホップの香りを大事にした、誰もが飲みやすい「ごくごく系」だと思います。料理の邪魔もしないので、食前酒的にも、家でまったりしている時間にも合うと思います。
何千本のうちの一本ではなく

――10年で10本という構想の中で、これから試していきたいことは。
渡辺 10本並べておきたい、コレクションしたいと思ってほしいですね。
今回のビールは、缶の飲み口の部分にレーザーでエディションナンバーを刻印しています。何千本もあるうちの一本ではなく、「自分に出会った一本」になる仕組みです。
ただ飲むだけで終わらせず、缶に愛着を持ったり、缶から地域に愛着を持ったり、観測記録そのものに思い入れができたり。そういうことができるメディアとしてつくっていけたら面白い。そんなふうに実験していきたいですね。
吉橋 正直、10年後にどうなるかまでは、まだ考えられていないです。1年目で、何ができるか試している途中の段階です。
でも、ちゃんと10年続けると決めた気持ちが、私の中ではすごく重要で。
10年のあいだには、見られなくなる風景もあれば新しく生まれる風景もある。それは人やお店もおなじ。そんな変化に寄り添いながら、残りの9本を私たちだけじゃなく、関わってくれる人たちと一緒につくっていけたらいいなと思っています。
『SEOR #01』は2026年9月12日発売。創成イースト内の店舗・飲食店にて、1,000本限定。発売に先立ち、9月11日(金)に実験施設 ZOKZOKでローンチイベントを開催します。
また、ZOKZOKでは今後、半年間にわたり月に一度SEORのイベントを開催予定。クラフトビールを楽しみながら、一緒に創成イーストを観測しましょう。
聞き手:吉田貫太郎(合同会社Goodies/実験施設 ZOKZOK コンダクター)














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